怖い凡人

 まずこの本の帯が衝撃的です。「平凡な人ほど他人を蹴落とし、のし上がる。児童虐待東芝不正会計、日大悪質タックル、ボクシング協会会長……すべて他人事ではない!『ヤバい権力者』から身を守れ!」
 平積みされている新書コーナーの中でとても目立つビジュアルを本書は放っています。表紙のバックが黒で印字の文字が白。しかし、もっとすごいのはその内容。企業、官公庁、学校などの組織でみられる「平凡なワンマントップ」が(本書では「アイヒマン的凡人」と表記)、本当に優秀な人物を排除していくケースを具体的に紹介し、論理的な検証を重ねているのが本書の内容です。具体例は、東芝不正会計問題や日大タックル問題、そしてヒトラーが率いたナチス・ドイツで起こった出来事など。
 すごいなと思ったのは日本における入試制度と企業土壌との次の指摘。「日本の現在の入試制度は、主に記憶力と情報処理能力をみるものである。よって、思考力がゼロでも丸暗記能力で偏差値の高い大学に入学できる。よって大企業も中小企業も思考力が乏しいアイヒマンであふれている」と。さらに、「空気」という暗黙の同調圧力といった環境がアイヒマン的凡人をのさばらせる日本の組織土壌についても言及。著者は臨床経験があるとのことですが、実際の組織に所属していなくても公知情報だけでここまでリアリティのある説得力のある考察ができる点がすばらしい。著者は本物の精神科医です。こんなに鋭い着眼点をもつ精神科の先生も日本にはいらっしゃるんですね。
 そういえば、16-17世紀の天文学の父、ガリレオ・ガリレイは異端尋問にかけられ、失職、軟禁状態に追い込まれたりしましたね。そんなガリレオの名誉回復がおきたのはつい最近ということをついこの前知りました。ローマ教皇が公式に謝罪したのは1992年、地動説を認めたのは2008年でした (まだ10年と少ししか経っていない)。最近、この事実を知って本当にびっくりしました。文字通り、「天地をひっくり返す」イノベーションの正当な評価にはこのくらい時間がかかるものなんですかね。少しでもそのギャップが埋まるといいなと思う今日この頃。。。