創造力なき日本 アートの現場で蘇る「覚悟」と「継続」

 最初に人物紹介。ご存知の方も多いですよね。著者は世界的なアーティストで、東京芸術大学における日本画科初の博士号修得者です (これだけでも凄さがわかります) 。また、有限会社カイカイキキ代表でありマネジャーとしての顔をもちます。2006年ニューヨークの美術館開催の最優秀テーマ展覧会賞を受賞し、2008年米Time誌の世界で最も影響力のある100人に選ばれました。

 本書ではアートの世界の話をしています。ただ、ビジネスの世界に広くつながるように話を展開しており、なるほどと思わせる文面が多々あります。ただ、一番意外だったのが村上氏のアートに対する姿勢です。アートというと孤独な環境でひたすら絵に向き合うというイメージを多くの方がもつと思いますが、村上氏はそうではありません! 新人が入社すると、彼はなんと挨拶の練習から始めるようです!!証拠がこのページです。最初このページを見たときはびっくりしました (http://toyokeizainet/articles/-/12012?page=3)。 しかし、この挨拶を重視するのは深い理由があります。本文に詳しく述べられていますが、美術・芸術を職業にするための覚悟とその産業構造と深く関係しています(第一章)。 最後の特別対談ではニコニコ動画でおなじみのドワンゴの川上氏との対談も収録されており、「日本よこのままでいいのか」という彼らならではの視点が随所に指摘されています。 美術に詳しくない方 (私もそうです) もスイスイ読めるので大丈夫です。

 村上氏によると、戦後刷り込まれた「ドリーム・カム・トゥルー」の方便の徹底が人を怠惰にした、その方便を捨てて実直に働くのがクリエイティブの基本であると「はじめに」で明確に述べています。 その「実直に働く」中身の一つが「挨拶」です。アートというと、製薬企業の研究開発以上に創造性がもとめられるイメージをもつと思いますが、この本を読むといかに周囲との協調性が大事であるかがよくわかります。 創造性へのアプローチとして、いかにして既存要素の組み合わせるかに焦点があたりがちですが、このような「当たり前」のことを見直してみるのもよいかもしれませんね。