マンガでわかる統計学 素朴な疑問からゆる~く解説

     一昔に比べ統計学の入門本が非常に多くなってきました。数式できちんと説明する一般的な本から本書のような「マンガで学ぶ統計学」というようなタイトルの本まで、書店には多くの統計本が並んでいます。種々の統計本を私は多少読みかじりましたが、この本は私のような初学者の方に特におススメです。確かに、タイトル通りのゆる~いタッチの本ですが、ときどき他書に書いていない目を引く記述があります。例えば、「正規分布の式で、なぜヒストグラムを近似したいのか」に関する著者の考察です。一言でいうと、データ単体で考えるよりもそのデータの正規分布による近似で考えた方が真実を表すかもしれない、と明確に述べている点です (P. 99)。この点を引力の法則を見出したニュートンケプラーと関連付けて説明する様は全然ゆる~くありません。非常に示唆的でエキサイティングな指摘です。この記述に目を通しただけで読んだかいがありました。あと、イラストがとてもかわいいです。羊と狼の掛け合いがとても秀逸です。絵も多くてスイスイと読めます。(ただ、統計に造形の深い方には物足りないかもしれません。また、薬理評価で必須である検定方法については物足りない感はややあります。そのあたりは他の参考書で補う必要はありそうです。)

    統計学の理解は、薬理学に関わらずあらゆるサイエンスにもはやなくてはならないでしょう。さらに、統計学の根底を流れる、「個々のデータではなく、その数式での近似を通じて物事を理解しよう」という姿勢はサイエンスの香りがプンプンします。また、「統計」という厄介な概念に対する筆者の説明の仕方自体も非常に勉強になります。端的に言うと、筆者が「はじめに」で書いていますが、小難しい概念を伝えるのに必要なのは一にも二にもストーリーという点です。「必要なのは複数のストーリーです。違うストーリー、違う説明を伝えて、その人の頭の中で1つの概念を再構築してもらう。(P.4)」という姿勢はイノベーションを起こそうとする人たちがもつべきものと心得ます。